ブロックチェーンのGoogle『The Graph』のトークン・エコノミクス

#147 Bspeak! 2020年10月12日号

■ The Graphのトークン・エコノミクス

The Graphというプロジェクトがありますが、先週は財団設立ステートチャネルを導入する発表などがありました。

ここでは、投機性がない状態でもプロダクトが利用されている数少ないプロジェクトThe Graphについての概要と、今後所有権の分散化のために用いられるトークンとそのエコノミクスについて書いていきます。

## 概要

The Graphはブロックチェーン上のデータを整理し、簡単にアクセスできるようにするためのプロトコルです。簡単にいうとブロックチェーンのGoogle的な立ち位置で、オンチェーン・アクティビティを整理して参照しやすくします。

誰でも「サブグラフ」と呼ばれるオープンなAPIを作って公開することができ、そのAPIに対して使いたいアプリ側から GraphQL を使ってデータを要求できます(要求はクエリと呼ばれます)。すでに、DeFiやWeb3系のプロトコルや、CoingeckoやMessariなどの情報ソースなどでも使われていて、アプリケーションの多くを支えています。

## 現状と目指すところ

現状The Graphが提供しているサービスは、毎月40億以上のクエリを処理していて、UniswapやCoinGeckoやSynthetixなどのアプリケーションに対して、トークン価格、過去の取引量、流動性などのデータを処理しています。

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しかしThe Graphのミッションは、上のようなThe Graph自身のサービスを運営することではなく、APIやサーバー、データベースが単一障害点となる可能性を排除することです。そのために、「The Graphネットワーク」という分散ネットワーク化し構築しています(現状テストネットです)。

このネットワークは、後述しますが、Indexer(インデックサー)とCurator(キュレーター)という役割からなるマーケットプレイスになっていて、このネットワークにより単一のサーバーやデータベースに依存する必要がなくなります。そして代わりに、インセンティブ付けされたノードによってデータやサービスが提供され、利用しているアプリは単一障害点をなくすことができます。また、Web2.0のようにデータ独占企業がパワーを持つのではなく、データを提供する参加者が報酬を得ることできるようになります。このThe Graphネットワークは、2020年後半にメインネットがローンチする予定になっています。

## The Graph ネットワーク上の登場人物(参加者の役割)

トークンが発行され、メインネットがローンチした際には、以下4つの役割でネットワークに参加できます。

  1. Indexer(インデックサー)
    インデックサーは、いわゆるノード運営者で、インデックス作成とクエリ処理サービスを提供するために、グラフトークン(GRT)をステークします。そしてインデクサーは、サービス提供の見返りとして、後述する手数料(クエリ料)とインデクサー報酬を獲得できます。インデクサー報酬は、PoSのチェーンでいうところのブロック報酬に相当します。

    技術的スキル:必要

  2. Curator(キュレーター)
    キュレーターは、サブグラフの開発者(あるチェーンやプロトコルに関連するAPIを作る人)や、データを利用する人、非技術者のコミュニティメンバーのことを言います。役割としては、どのAPIがThe Graph ネットワークによってインデックス化されるべきかを、インデックサーに対してシグナルを送ります。シグナルを送るというのは、トークンをロックする行為になります。

    特定のサブグラフにGRTトークンをロックし(ボンディングカーブに預け)、そのサブグラフが得るクエリ料の一部を得ることができます。どのサブグラフ(データソース)が良いかをキュレーションするインセンティブになるというわけです。

    The Graph エクスプローラーというdAppを使ってGRTをデポジットします。ボンディングカーブで計算されるため、サブグラフ上でのシグナルが早いほど(ロックがする時期が早いほど)、ロックするGRTに対して、獲得するクエリ料のシェアが大きくなります。

    技術的スキル:少し必要

  3. Delegator(デリゲータ)
    デリゲータは、ノードを運用しない普通のトークンホルダーです。GRTをインデックサーに委任することで貢献し、クエリ料とインデックス報酬の一部を得ることができます。PoSのノードを選ぶのと同じように、クエリ料率、過去におきたスラッシュ、アップタイムなどの指標と、委任者にシェアされる分け分などのパラメータをみて、どのインデックサーに委任するかを選びます。

    技術的スキル:必要なし

  4. Consumer(コンシューマ)
    コンシューマは、サブグラフに問い合わせを行い、手数料(クエリ料)をGRTで支払う The Graph の利用者です。ほとんどの場合、アプリケーションのクエリ料を負担する開発者やプロジェクトのことを指し、AWSとかに利用料を払うのと同じような感じです。この手数料は、上であげたインデックス作成者やキュレータ、デリゲータ渡ります。アプリの作り方によっては、このクエリ料をユーザに支払ってもらうように設計したり、製品料金に上乗せするというのも出てくると思います。

## グラフトークン (GRT)

GRTは、上でもすでに書いていますが、インデックサー、キュレーター、デリゲータがロックするERC20トークンのトークンです。新規トークン発行は年3%で開始され、ノード(インデックサー)に報酬として与えられます。配布とガバナンスについては、まだ詳細が発表されておらず、ローンチが近くなった際(近日中)に共有されます。

## GRTによるインセンティブ

報酬に使われますが、その他と同じようにペナルティにも使われます。つまりノードが悪意のある振る舞いをした際にステークしているGRTが没収されます。まるでレイヤー1のような設計がされています。悪意のある振る舞いではなくても、アプリケーションに誤ったデータを提供したり、誤ったインデックスを作成したりした場合も没収される可能性があります。こういったことを防ぐために、キュレーターとデリゲーターが、しっかりとノードをキュレーションするように動機づけされています。

彼らは没収されることはありませんが、「引き出し税」という手数料があり、ロックを解除するときにいくらか損失を出します。割合などの詳細な数字はまだ決まっていませんが、あまりロック先を変えずにしっかりと吟味(キュレーション)させるためのインセンティブになります。

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## バーン

クエリ料の一部はバーンされます。一部というのは、クエリ料全体の 1% と今のところは予定されていますが、将来的にはガバナンスの対象になります。上で書いた「引き出し税」もバーンされる予定です。

## クエリ・マーケットプレイス

インデックサーが稼ぐクエリ料の価格は、インデクサー自身が設定し、サブグラフをインデックスするためのコストや、クエリの需要、キュレーションシグナルの量(ロック数)、などを元に変動します。コンシューマ(つまりアプリ)がクエリにお金を払うので、総合コストは、サーバーやデータベースを実行するコストよりもはるかに低いと予想されています。

The Graphのコアチームは、アプリのユーザーに負担させるのでなく、アプリ側でクエリ料を払えるようにするツール(ゲートウェイ)も用意する予定です。


## 今後

最初にも書きましたが、先週財団を設立することを発表し、TheGraphのコアチームは「Edge & Node」に名前を変え、コミュニティ中心で開発と運営がされていくようになります。トークンの配布は上で書いた通り今後明らかになりますが、テストネット上の貢献者に対して将来のGRTを配布するなどして、徐々に分散化を進めていく予定になっています。 

■Last Week in Crypto

1.Jack Dorsey’s Square purchases $50 million worth of bitcoin

Bspeak!でも何度も登場している ジャック・ドーシーのSquareですが、$50M分のBitcoinを長期投資目的で購入し、資産の一部をBitcoinで保有する2番目の上場企業となりました。(1番目はBspeak! 2020年8月17日号で書いたMicroStrategy)

またSquareは、ビットコイン投資ホワイトペーパーを発表し、同様のことを考えている企業が参考になるようにプロセスを公開しています。

その中で、プライバシーを維持しながら大規模な金額で価格が変動しないように、OTCのビットコイン流動性プロバイダーを使用していることを説明しています。また保管に使うコールド・ストレージのドキュメントのリンクを貼ったり、犯罪保険の方針なども説明しています。そこまで長くない文章なので、一度読んでみると良いと思います。

相場的にいえば、トランプ大統領の新型コロナウイルス感染や、BitMEXの幹部が起訴されたニュースなどで少し停滞していたところ、このSquareの発表で上向いた印象があります。とはいってもSquareはクリプトの事業をやっている企業なので、それよりもむしろMicroStrategyのような、クリプトの事業を運営していない企業郡がポートフォリオの分散や投資目的で購入するようになってくると、さらに勢いづきそうです。

MicroStrategyのCEOの話だと、普通の上場企業だと諸々のプロセスに9-12ヶ月かかるので、今年に興味を持ち始めた企業たちが来年あたりに実行し、似たような発表をする企業が増えてくるのではないでしょうか。

 

2.A rollup-centric ethereum roadmap - Fellowship of Ethereum Magicians

Fellowship of Ethereum Magiciansというフォーラムの投稿で、Ethereum創始者Vitalik Buterin氏が、「Ethereumが予想外の方法でスケーリングする可能性がある」と書いています。

Ethereum 2.0のロードマップによると、アプリケーションのスケーリングはまだ何年が先のことですが、レイヤー2の選択肢(ロールアップ、プラズマ、ステートチャネルなど)が、すでにテストネットで機能していて、近・中期的な解決策として現実的になってきています。

そして彼の結論は、もし誰もがロールアップに移行すれば、Ethereum 2.0への移行のフェーズ2はもはや要らず、代わりにEthereumは「誰もが処理する1つの高セキュリティ実行シャードになり、かつスケーラブルなデータ可用性レイヤーになるかもしれない」というものです。

L2が十分に浸透する時点では、全部をベースチェーンに戻そうとするよりも、そのままL2ベースで進む方が簡単なので、そういったアプローチ(記事内ではフェーズ1.5)でEth2.0に移行する方向も示唆されています。Ethereumがこの道を進むかどうかはまだわかりません。

また他の内容としては、「L2の中でもロールアップに焦点を当てることで、独自のトークンを発行して開発資金を調達できるレイヤー2プロトコルが増えるだろう」とコメントされています。

ロールアップの中でも、zkロールアップと、Optimisticロールアップの2種類が主流になりつつあり、比較の記事もあります。

先週はちょうど CurveとMatterLabがコラボし、Zkロールアップを使ったCurveのテストが発表されました。さらに上で書いたTheGraphについては、ロールアップではなく、ステートチャネルという手法でL2の少額決済を可能にする発表をしました。他にもxDAIやMaticを使うプロジェクトも出てきていて、L2のスケーリングが現実的に選ばれてきています。

 

3.Eth2 Bounty Program

Ethereum 2.0 (Eth2) の初期フェーズの立ち上げに特化した新しいバグバウンティプログラムが開始されました。プログラムのウェブサイトには、フェーズ0の仕様だけでなく、Prysm、Lighthouse、Tekuなどの特定のソフトウェアクライアントにも焦点を当てていることが詳細に記載されています。

 

4.Wormhole — Solana/Ethereum Bridge (Registration for the hackathon is now open!)

高速なスマコンチェーンSolanaは、Ethereum上とSolana上で、ERC20トークン⇄SPLトークンを相互変換できるようにする「wormhole」というプロジェクトを発表しました。

Wormholeでは、ER20トークンをEthereumスマートコントラクトにロックし、Solana上で対応するSPLトークンを発行できるようにします。これを実現するために「クロスチェーンのオラクル」に頼ることになります。このオラクルはガーディアンと名付けられ、Solana上のトップバリデータとその他のシェアホルダーが運用する予定だそうです。

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似たようなEthereumブリッジでいうと、NEARがありますが、最初からブリッジを前提に開発しているためアプローチが異なります。今回のSolanaではオラクルとしてセキュリティを確保する必要がありますが、NEARでは互換性をもたせるチェーン上(まずはEthereum上)にブリッジノードをおき、NEARチェーンのブロックヘッダーをダウンロードして検証します。なのでブリッジのセキュリティは、NEARチェーン自体のセキュリティに依存し、NEARが安全である限り安全となります。

初期の設計思想の違いですが、今後いろいろな異なるチェーンと相互運用される需要が増えるにあたって有利になっていくかもしれません。

 

5.Covalent Closes $3.1 Million in Oversubscribed Funding Round to Build the Future of Blockchain Data Analytics

Ethereumアナリティクスを開発するCovalentは、$3.1Mを調達しました。このラウンドはWoodstock Fund、1kx Capital、Mechanical Capital、CoinGeckoやAlameda Researchなどが参加しています。

Covalentは現在、Ethereumのオンチェーンデータと分析を提供しています。今回の新たな資金調達により、その他チェーンをサポートする予定になっています。DeFiファーミングブームによって、CovalentのAPI利用数が一気に伸びているそうです。

 

6.The Next Chapter of DefiDollar.

ステーブルコインDUSDを発行しているDeFiDollarは、DFDという2つ目のトークンを発表しました。MakerDAOでいうところのMKRにあたり、ガバナンストークンになります。56%がコミュニティ、23%がチーム、11%が投資家、10%がリザーブになり、コミュニティ配分は流動性マイニングなど貢献度に応じて分配される予定です。詳細はまだ発表されていません。

 

7.Shell Protocol Launches Its First Stablecoin Pool

Shell Protocolは、ローンチから3日後にステーブルコインの流動性プールに14Mドル近くロックされました。Shell Protocolは、4つのステーブルコイン(DAI、USDC、USDT、sUSD)のプールがあるAMMです。他のAMMであるCurve、Balancer、Mooniswapの良いところを取り入れています。

例えば、Curveのように、最小限のスリッページでステーブルコイン間の大規模な取引をターゲットとしています。Balancerのように、プールはウエイトをもたせることができ、現状は30% DAI、30% USDC、30% USDT、10% SUSD です。1inchのMooniswapと同様に、手数料がステーブルコインがペグから逸脱した場合に増加し、アービトラージャーから流動性提供者への利益を再分配をします。ネイティブトークンのSHELLを持っていますが、配布プログラムはまだ実施されておらず、ガバナンスのための仕組みを開発中です。


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